”日本で働いている人の約半数の49%の職業が、機械やAI(人工知能)によって代替することが可能だ”
─ オックスフォード大学准教授マイケル・オズボーン氏
”2011年にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、 大学卒業後、今は存在していない職業に就くだろう。”
─ ニ ュ ー ヨ ー ク 市 立 大 学 大 学 院 セ ン タ ー 教 授 キ ャ シ ー ・ デ ビ ッド ソ ン 氏
2029年にAIが人間並みの知能を備え、2045年に人間の知能を超えるというシンギュラリティー(技術的特異点)を迎えるという、「2045年問題」を米国の発明家・実業家・未来学者でもあるレイ・カーツワイル氏が発言し、話題となった。このようなAI時代にあっては、今までのような暗記型の知識は、あまり重要ではなくなると考えられている。
それに対して、予測のできない未来に主体的に学んでいく力や、物事を成し遂げる力など、人間の本来もつ非常に重要な資質が求められると言われている。それが、非認知力と言われるものだ。
認知力(IQ)と非認知力(EQ)

認知力とは:
認知力とは、知能の一部のことであり、知能指数(IQ)―つまり計算ができる、文章を読み書きできるなど記憶力や処理能力など学習面に機能する能力で、数値化可能な力。IQを高めるには乳幼児期の働きかけが、とにかく重要という。1972年に米国で実施されたアベセダリアン・プロジェクトという研究が有名だ。これは、生後約4カ月のアフリカ系アメリカ人の貧しい家庭で生まれた約100人の子供を保育園に通わせたグループと通わせないグループに分けた比較研究である。保育園に通う子どもたちには、教育理論に基づいたゲーム形式の継続的な教育を実施。5歳まで週に5日行い、また教師は定期的な保護者面談で家庭学習方を指南した。健康管理や行政サービスは、両グループに同じように提供した。
さて、結果はどうだったか?
幼少期に教育的な介入を受けていれば、30代になった時のIQが平均してより高くなり、学校の出席率や大学進学率が高く、スキルの必要な仕事に就いている比率も高く、一方、10代で親になっている比率が低かった。犯罪行為に手を染める比率も減っていたという。
認知力=知能指数(IQ)は、乳幼児期には効果が見られるが、大人になってからではそれほど高めることが期待できない。一方、乳幼児期からの教育が大切ではあるが、それ以降も能力を高めることが期待できるのが、非認知力だ。
非認知力とは:
非認知力とは、知能指数(IQ)などでは数値化できない能力のことを言い、ビジネスやスポーツなど様々な分野での成功者に共通する潜在能力と考えられている。一般的に言われているのは、下記の3領域。
・目標の達成(忍耐力・自己抑制・目標への情熱)
・他者との協働(社交性・敬意・思いやり)
・情動の制御(自尊心・楽観性・自信)
2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン米シカゴ大学経済学部特別教授の「ペリー就学前プロジェクト」と呼ばれる研究調査でも、幼児期の早い段階で教育的介入が必要であることが立証されている。この調査の対象は、貧困世帯の3~4歳の子どもたち123人。こちらでも2グループに分け、片方には週3回、1日3時間の保育園に2年間通ってもらい、週に一度教師による家庭訪問も実施した。
この2つのグループでその後の人生にどんな変化が起こるのか追跡調査をしたところ、40歳の時点で明らかな違いが現れた。保育園に通ったグループは、通わなかったグループに比べて収入が多く、持ち家率が高く、学歴も高かったのだ。ただしここでのポイントは、ヘックマン教授はこの結果はIQによるものではないと考えているところだ。子どもたちのIQを調べると、この調査においては保育園に通っている間は急激な成長を確認したが、9歳ごろになるとIQの差はほとんどなくなっていたからだ。保育園に通ったグループが40歳時点でより幸せな状況であるのは、保育園で認知的な能力が伸びたからではなく、認知的な能力以外(非認知能力)を身につけたことが大きな要因ではないかと考えたのだ。なぜなら、IQで導くようなテストを解く能力と、実社会で直面する様々な問題を乗り越える能力は別物であり、現実に直面する大小様々な人間関係や社会的な諸問題などは、IQでは測れない忍耐強さや意思や自己抑制力などが重要な役割を果たすからだと言う。
ヘックマン教授の主張は、2つ。
(1)子どもの教育に国が公共政策としてお金を使うなら、就学前の乳幼児期がとても効果的だということ。
(2)幼少期に非認知的な能力を身につけておくことが、大人になってからの幸せや経済的な安定につながるということ。
非認知力を伸ばすには?
では、非認知力を伸ばすにはどうしたら良いのだろうか?
ひとつは、環境設計。精神医学や心理学の分野で「アタッチメント」と呼ばれる、親や家族が子どもの心に寄り添い、子どもは大人から無条件に愛されているという経験を乳児期から積み上げることで、信頼感が確立し、気持ちを制御(コントロール)可能にし、自発的に物事に取り組む人間的基礎が築かれる。学生や社会人であれば、チームや部内での信頼関係の構築となろうか。
もうひとつは、「PLAY=あそび」。PLAYとは、「なぜ?」「どうして?」という好奇心や探究心の種から出来上がっているもので、創意工夫や問題発見、問題解決の要素が豊穣なのだ。大人と触れ合いながら、身体と感覚を使った様々なPLAYが、後の人生に大きな影響を与えるわけだ。

ちなみにこのPLAYでも学生や社会人に当てはめて考えると、勉強や仕事におけるプロトタイピングとなろう。言い換えれば、実験的試行と言う創造的なトライ&エラーを繰り返すことだ。
非認知能力で注目をされるGRIT(グリット)
GRIT(グリット)とは「やり抜く力」のことで、アメリカの心理学者であり、ペンシルヴァニア大学のアンジェラ・リー・ダックワース教授が提唱した言葉。アンジェラ教授は、『成功する人に共通する特徴は「情熱」と「粘り強さ」、すなわち「やり抜く力(GRIT)」である』という。
GRITとは、以下の4つの単語の頭文字から成る。
Guts(度胸):困難に立ち向かう「闘志」
Resilience(回復力):失敗してもあきらめずに続ける「粘り強さ」
Initiative(自発性):自らが目標を定め取り組む「自発」
Tenacity(執念) :最後までやり遂げる「執念」
GRITは生まれつきの才能など先天的なものではなく、誰もが後天的に獲得することが可能な能力。GRITを育成する方法をアンジェラ教授は、「困難はいつまでも続かない」ことが理解できると努力を続けられると言う。また、後天的に獲得することが難しいIQとは違い、GRITはトレーニングによって育成できる。一般的に認識されているGRITを獲得する方法は、以下。
- 没頭できること、興味があることに集中する。
- 失敗を恐れず、挑戦せざるをえない環境を作る。
- 小さな成功体験を積み重ねる。
- GRITを持つ人の近くに身を置く。
ちなみに悪いGRITもあり、嫉妬や自己陶酔型、あるいは傲慢の原因となるものらしい。
GRIT SCALE(グリット・スケール)
さて、自分のGRITを測定する方法がある。皆さんもゲーム感覚でやってみませんか? まず(何も余計なコトは考えず)、以下の表の10項目について該当する数字を選択し、その合計値を計算してみよう。正直に、ただ該当するものを正確に選び、足し算をしてみてください。

合計値は出ましたか?
では、その合計値を10で割ってください。このスコアが、GRIT値になります。
最高値が5で、この数値が高いほどGRITが高いのです。
ちなみに私は、3.9でした。皆さんは、どうでしたか?