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Learning by Playing: “コミュニケーション”が学力の鍵!

「親は指導者であることを辞め、
忍耐強い応援者であれ。」


 これはある教育者が語ってくれた教育論の中の一節。頭のいい子というのは、効率的に暗記した情報を正確に答える能力だけではなく、むしろ答えのない問題にきちんと自分の考えを組み立て、アウトプットする能力である。例えそれが、正しいものではなかったにせよ。

自分の頭でモノゴトを考える入り口は、「好奇心」である。自分の見たものや他人に関心を持つことは、「考える」大切なきっかけだ。これは社会的スキルとも言われているが、社会的スキルにはコミュニケーション力も含まれる。社会的スキルの研究は、1970年代になって活発になったのだが、教育学者や医学者、あるいは心理学者などの立場によってその範疇はとても広いが、この社会的スキルが学業に影響するという研究結果が多くの分野で報告されているようだ。


さて、社会的スキルとは具体的に何であるか?
大まかに分類すれば、以下の3つが挙げられる。

社会的スキルとは?

  • 対人行動(会話スキル、協力的行動、遊びなど)
  • 自己行動(感情の表現、倫理的行動、自己に対する肯定的な姿勢など)
  • 課題行動(注意を払う、課題の達成、自立心など)

遊びや対話を通して「好奇心」を発動させ、熱中したり調べたり、好きな行動を疑いなく肯定的にのめり込み、ある種の「成果」を「報酬」として獲得する。このように「思考力」のメカニズムを上記の社会的スキルに応じて3ステップで説明ができるかも知れない。これは子どものことだけではなく、大人だって、いや学者だって同じなのだ。

好奇心は、「学び」のメカニズム・デザインにおいて大きなエンジンとなる。

ノーベル賞より難関なイグ・ノーベル賞

イグ・ノーベル賞のマスコット”The Stinker(失敗作/困った人)”

学者は、すぐに役立つわけではないが、日常のささやかな疑問や発見を情熱によって素晴らしい成果へと昇華させる。実際、イグ・ノーベル賞の受賞者から、本家のノーベル賞を受賞したケースもあるという。研究者は、自分の好きな研究を日々行い、新しい「発見」を信じて仮説をたて実験を重ねて、課題の達成を試みているのだ。

→「バッタも『スター・ウォーズ』を観ると興奮する」「忙しい時ほどトイレに行きたくなるのはなぜか?」― 人を笑わせ、考えさせた業績に贈られるイグ・ノーベル賞。冗談のような滑稽な研究を発表しているのは、世界の権威ある大学の学者たち。本年は、日本から京都大学の研究者が「音響賞」を受賞。その研究とは「ワニにヘリウムを吸わせて鳴き声の仕組みを解明する」。実際にワニにヘリウムを吸わせて、声の周波数が倍になることを調べ、ワニも哺乳類や鳥類と同じように、声帯から口までの間にある空気を振動させて声を出していることが確認されたとのこと。

関心を持ち、自分で考える思考力をどう育むか?

子育て論では、「子どもを否定してはいけない」とか「ご褒美を与えてはいけない」とか様々なことが言われ方法論はいろいろあるようだが、学力にも影響がある定論は、家庭でのコミュニケーションによるものだ。ある調査では、「親の学歴」「所得」「就労時間」といった家庭環境や経済状況を尋ね、子供のテスト正答率との相関関係を調べた結果、保護者と家庭環境が子供の学力に影響を与えることがわかった。しかも興味深いのは、「子供から親に話す」ことの重要性だ。調査では、親→子ではなく、子供→親へと積極的に話す家庭ほど、子供の学力が高かったという。その話題は、たわいもない「学校での出来事や友達について」や「勉強のことや成績のこと」、「将来や進路について」、「地域や社会の出来事やニュースなど」について様々であって良い。

これは“環境”を作ることが親の仕事であることを示唆している。親は家庭での「環境デザイナー」を担うべきということが言われる。子どもが話しやすい環境をつくり、積極的な聞き役となること。「さぁ、話しなさい」では子どもにとっても話しにくいので、夕食の団欒の時間や共に楽しめる趣味や娯楽の機会、あるいはスポーツの時間を共有したり、「時間と空間をデザインし、様々な体験の種を巻いておく事」が大切だ。社会人でも同じようなことが言える。

例えば、会社での会議。緊迫した空気では、なかなか発言もし難い。そこで会議の前に15分ほどボードゲームを参加するメンバーでプレイすると、発言数が3倍になったという事例もある。“場(環境)”の設定が鍵らしい。

言語・非言語のコミュニケーション

コミュニケーションは、家庭や会社だけでなく、スポーツの世界でも重要視されている。

海外のスポーツ選手との比較において、自分の行為を言語化する事に日本人は苦手で、これは論理的に考えるスキルが低いことに起因している。論理的に考えることができると、「なぜ自分はそのプレイをしたか」を説明することが可能で、つまり論理的に合理的なプレイを習得できるのだ。また、このような言語コミュニケーションだけでなく、スポーツの世界には非言語コミュニケーション能力も高く要求される。

非言語のコミュニケーションとは、例えばボードゲームをプレイすることで習得することができるスキルの1つだが、ミスしても相手に気づかれないようにポーカーフェイスをしたり、あえて意図したものと違う表情をつくり相手を錯乱する行為や、逆に相手の表情を見通す行為(読み)など、いわば五感と身体を通して真意を読み取るコミュニケーションだ。

情報処理能力で言うと目は耳の530倍もの能力に相当すると言われる。スポーツにおいては、ジェスチャーやサインなどの非言語コミュニケーションの他に視覚から得られる情報―フォーメーションや動き、傾向などをもとにその都度判断し、次に起こる未来を予測する能力が養われる

このように、実社会においては子どもから大人まで誰もに必要なスキルとは、モノゴトを楽しむ力=好奇心であり、コミュニケーションを通した体験であり、自己肯定感をって歩む力である。思考とは、これらの相互作用によって培われると言っていい。

思考力の全ての源は、身の回りのささやかな疑問に目を向け、観察し、考え、言語化し、対話という行為(言語・非言語コミュニケーション)によって育てられるのだ。